
増収企業の71.2%がすでに導入し、そのうち86.5%が「有効」と回答している学習手法があります。(株式会社manebi、2024年11月)
それが、ブレンディッド・ラーニングです。
ブレンディッド・ラーニングは、対面研修・オンライン研修・eラーニングを組み合わせて、知識の習得から行動の定着までを一つの流れとして設計する教育アプローチです。
ポイントは「組み合わせる」ことそのものではなく、「プロセスとして設計する」ところにあります。この記事では、定義から他アプローチとの比較、導入ステップ、つまずきやすいポイントまでを順に見ていきます。
目次
ブレンディッド・ラーニングとは何か
「先月、全社員に研修を受けてもらったんですよ。でも現場の様子は全然変わってなくて......」
人事の方と話していると、この手のこぼれ話をよく聞きます。研修はやった。アンケートの満足度も悪くない。なのに、翌週の現場は先月とまったく同じ。心当たりのある方は多いはずです。これは業界で長く繰り返されてきた悩みで、その一つの答えがブレンディッド・ラーニングです。
定義──「足す」ことと「設計する」ことは違う
手法をいくつか足すことと、プロセスとして設計することは、まったくの別物です。食材を皿に並べただけでは料理になりません。研修の形態をいくら揃えても、レシピにあたる設計がなければ、狙った行動変容にはつながらない。ブレンディッド・ラーニングが指しているのは、この「レシピ」の部分です。

「ブレンディッド(blended)」は英語で「混ぜ合わせた」の意味。文献に登場したのは1999年、日本に入ってきたのは2003年ごろです。2006年に研修の専門家 Josh Bersin が『Handbook of Blended Learning』でこの概念を体系化したのをきっかけに、企業研修の世界に広まりました。
産業能率大学の調査(『通信教育およびeラーニングの活用実態調査』2025年)では、eラーニング単体について「満足度」や「知識の習得」への効果は感じられているものの、「社員の行動が実際に変わった」「組織のパフォーマンスが上がった」と実感できている企業は少数にとどまっています。
「わかった」と「できる」の間には、思っているより距離があります。その距離を埋めるための設計が、ブレンディッド・ラーニングです。
ブレンディッド・ラーニングに関心が高まっている3つの背景

① 働き方がハイブリッドになった
コロナ禍でリモートワークが広がり、研修もオンラインが当たり前になりました。一方で Amazonやメルカリ、GMOのように出社回帰(RTO=Return to Office)に舵を切る企業も増えています。オンラインと対面を場面ごとに使い分けたい、という現実的なニーズが、ブレンディッド・ラーニングへの関心を押し上げています。
② リスキリングを、業務を止めずに進めたい
DXやAIの普及で、社員には新しいスキルを学び続けることが求められています。eラーニングで少しずつインプットしながら、対面で実践する。この組み合わせなら、日常業務と両立させながら学べます。
③ 経営層が研修の効果を数字で見たがっている
「研修に年間これだけ使っているが、本当に意味があるのか」。この問いが経営会議で出るようになりました。アセスメント(現状を数値で測る評価ツール)による研修前後の比較や、学習管理システム(LMS)での進捗の可視化が、この問いに答える手がかりになります。
株式会社manebiが増収企業を対象に行った調査(「増収企業の研修に関する実態調査」2024年)では、71.2%がブレンディッド・ラーニングを導入済みで、そのうち86.5%が「有効だと思う」と回答しています。導入のきっかけの上位は「学習効果を高めるため(63.3%)」「研修コストの削減(60.8%)」でした。市場規模もグローバルで2024年に約202億ドルに達し、2030年まで年平均21.8%の成長が見込まれています(Grand View Research、2024年)。人材育成の標準的な選択肢になりつつあります。
【比較表】ブレンディッド・ラーニング/eラーニング/集合研修の違い
「eラーニングだけではダメなのか」「集合研修だけではダメなのか」。よくいただく質問です。答えは目的次第ですが、まずは3つの手法の違いを整理しておきます。
3手法・8軸比較
| 比較軸 | ブレンディッド・ラーニング | eラーニング | 集合研修 |
|---|---|---|---|
| 学習効果 | ◎ | ○ | ○ |
| コスト | ◎ | ◎ | △ |
| 運営負担 | ○ | ◎ | △ |
| 標準化 | ◎ | ◎ | △ |
| 個別最適 | ◎ | ◎ | △ |
| 受講者の満足度 | ◎ | ○ | ○ |
| 効果測定のしやすさ | ◎ | ◎ | △ |
| 導入の工数 | △ | ○ | ◎ |
ブレンディッド・ラーニングは最もバランスが取れており、△がつくのは「導入の工数」だけです。ここは外部の専門家や社内に専門の担当者がいる場合は解決できます。
参考までに、デジタル・ナレッジ社の調査では、オンライン研修と集合研修を組み合わせたハイブリッド型の満足度は社員70.8%・企業71.2%。集合研修単体(社員40%・企業50%)を大きく上回っています。
育成テーマ別・最適な学習形態
| 育成テーマ | eラーニング | 集合研修 | ブレンディッド・ラーニング |
|---|---|---|---|
| コンプライアンス (知識の習得・そろえ) |
◎ | ○ | ○ |
| ビジネススキル (業務に活かすスキル) |
○ | ○ | ◎ |
| 管理職育成 (行動として定着) |
△ | ○ | ◎ |
| 組織変革・信頼構築 (文化・行動の変容) |
△ | ○ | ◎ |
知識をそろえることが目的のコンプライアンス研修なら、eラーニング単体でも十分です。一方、管理職育成・組織変革・信頼構築のように行動そのものを変えたいテーマには、ブレンディッド・ラーニングが向いています。ブレンディッド・ラーニングの4つのメリット

一言でいえば、ある手法の弱点を別の手法の強みで補って、学習の効果を高められること。ここが最大の利点です。企業側と受講者側に分けて見ていきます。
企業側の4つのメリット
① 学習効果を高められる
「学習の70%は仕事の経験から、20%は他者との関わりから、10%は公式な教育から生まれる」という70:20:10の法則があります(ロミンガーの法則)。eラーニングや集合研修を単体で回しても、届くのはこの10%まで。対面のロールプレイや現場OJTを組み合わせれば、残りの70%・20%まで設計に組み込めます。

② コストと運営負担を抑えられる
知識のインプットをeラーニングに移すだけで、会場費・交通費・宿泊費・印刷費を大きく減らせます。空いた対面の時間は、実践に集中する場として使い直せます。
③ 標準化と個別最適を両立できる
共通の知識はeラーニングでそろえ、理解度や役割に応じて対面でフォローする。「全員に同じことを教えたい」と「一人ひとりに合わせたい」を、同時に満たせます。
④ 効果を数字で示せる
アセスメントによる研修前後の比較と、LMSで見える受講完了率・理解度テストの結果。この二つがあれば、「研修の効果を数字で示せない」という悩みに答えられます。
受講者側の3つのメリット
① 続けやすい──通勤中、昼休み、自宅と、自分のペースでインプットできます。業務との両立がしやすくなります。
② 自分の理解度に合わせられる──わからないところは繰り返し、わかっているところは飛ばす。集合研修のように全員同じスピードで進む必要がありません。
③ 実務に直結する──インプットはオンラインで済ませ、対面では実際にやってみることに時間を使えます。「知っている」が「できる」に変わります。
設計モデル──4フェーズで「やりっぱなし」を終わらせる
現場で実践してきた4フェーズの設計モデルを紹介します。
フェーズ1:現状を数字で知る
オンラインアセスメントや360度評価(上司・同僚・部下など複数の視点から個人を評価する手法)で、組織と受講者の現状を数値化します。「なんとなく課題がありそう」ではなく「平均よりスコアが20%低い」まで見える化する。ここまでやると、設計に根拠が生まれます。
フェーズ2:知識のインプットはオンラインで
必要な知識や理論は、eラーニングやオンデマンド動画で学びます。理解の早い人は先に進み、時間のかかる人は繰り返し見られる。個別最適な学びをコストを抑えて実現できるので、この段階はオンラインが向いています。
フェーズ3:実践は対面で、本気で
「知っている」を「できる」に変えるには、やってみてフィードバックをもらう体験が欠かせません。ロールプレイ、ケーススタディ、グループワークは対面で行います。フェーズ2で全員が知識を持って集まっているので、対面の時間はまるごと実践に使えます。
フェーズ4:定着と測定を仕組みにする
研修が終わった瞬間に終わりにしないための設計です。オンデマンドの振り返りやOJTとつなげて、学びを日常業務に落とし込みます。そのうえでフェーズ1のアセスメントをもう一度実施し、何がどう変わったかを数値で確認します。
大事なのは、この4フェーズを一周して終わりにしないことです。測定結果を次のサイクルの出発点にする。この繰り返しが、研修をイベントではなくプロセスにするということです。
つまずきやすい3つのパターンと対策
| つまずきやすいパターン | 対策 |
|---|---|
| ① 事前学習が形骸化する 受講者がeラーニングを受けずに対面研修に出席し、知識がそろわないまま実践に入る。 |
学習進捗をリアルタイムで管理できる仕組みを導入し、未完了者へのフォローを自動化または定例化する。LMSの進捗可視化で担当者が把握し、対面開始前に必須完了とするルールを設ける。 |
| ② 対面の時間が知識伝達に終わる 対面研修で講師が知識を説明する時間が長くなり、実践・フィードバックの時間が削られる。 |
フェーズ2で知識インプットをオンラインで事前に完了させ、対面時間はロールプレイ・ケーススタディ・グループワークなどの実践に100%充てる設計にする。 |
| ③ 効果測定ができない 満足度アンケートだけで終わり、行動が変わったか・パフォーマンスが上がったかが示せない。 |
受講前後のアセスメント(360度評価など)を標準装備とし、Before/Afterを数値化する。LMSの受講完了率・理解度テストと合わせて、経営層への説明資料として活用する。 |
FAQ:フェーズ別によくある質問
【情報収集フェーズ】
Q1. ブレンディッド・ラーニングとは何ですか?
対面の集合研修、eラーニング、オンデマンド学習といった複数の学習形態を意図的に組み合わせ、知識の習得から行動の定着までを一貫して設計する教育手法です。単なる研修の組み合わせではなく、学習をプロセスとして設計する点が核心です。
Q2. ハイブリッド・ラーニングとの違いは?
ハイブリッド・ラーニングは、対面参加者とオンライン参加者が同時に一つの研修に参加する形態で、参加方法の選択肢を広げるのが主な目的です。ブレンディッド・ラーニングは、複数の学習形態を時間軸も含めて意図的に組み合わせた学習設計全体を指します。ハイブリッドラーニングは、その中の一手法にあたります。
【比較・検討フェーズ】
Q3. eラーニングだけでは不十分ですか?
知識の習得はeラーニング単体でもできますが、行動の定着には構造的な限界があります。産業能率大学の調査(2025年)でも、eラーニング単体で行動変容やパフォーマンスの変化を実感できている企業は少数です。対面やライブオンラインと組み合わせると、実践とフィードバックの機会が生まれ、定着まで一貫して設計できます。
Q4. リーダー研修に有効ですか?
特に有効です。リーダーシップは知識を得るだけでなく、行動として定着させることが本質です。アセスメント→対面ワークセッション→継続フォローというプロセスが効果的です。
【導入決裁フェーズ】
Q5. 中小企業でも導入できますか?
できます。大規模なLMSの構築は必須ではありません。定額制のeラーニングサービスに社内勉強会やOJTを組み合わせるところからでも始められます。大事なのは規模ではなく、学習プロセスの設計です。フランクリン・コヴィー・ジャパンでは、規模や予算に応じた個別相談も承っています。
Q6. 導入効果を経営層にどう説明すればいいですか?
アセスメントによるBefore/Afterの比較データが、いちばん説得力を持ちます。研修前後の360度評価スコアの変化、LMSの受講完了率と理解度テストの結果、上長による行動評価。これらを組み合わせれば、投資対効果を定量的に示せます。満足度アンケートだけでは足りません。行動が変わったかどうかまで測る設計にすることが、経営への説明責任を果たす鍵です。
失敗を防ぐ仕組みを、最初から組み込む
先ほどの3つのつまずきは、いずれも仕組みがないから起きるものです。裏を返せば、適切な仕組みを最初から用意して始めれば、その多くは防げます。
フランクリン・コヴィー・ジャパンの All Access Pass® は、その仕組みをまるごとパッケージにしたサービスです。

事前学習が形骸化する問題 → 学習進捗をリアルタイムで管理できるので、未完了者への対応も仕組みにできます。
効果測定ができない問題 → 受講前後のアセスメントが標準装備。行動が変わったかをBefore/Afterで数値化できます。
まとめ

この記事の要点を整理します。
ブレンディッド・ラーニングは、手法の組み合わせではなく、学習プロセス全体の設計です。増収企業の71.2%がすでに導入し、86.5%が有効性を実感している(manebi、2024年)ように、人材育成の標準的な選択肢になりつつあります。
3つの手法を比べると、ブレンディッド・ラーニングがもっともバランスの取れたアプローチです。成否を分けるのは、4フェーズの設計と、行動変容の測定。伊東商会のように、90日間の継続設計で8割の社員を動かすことも、決して特別な話ではありません。
失敗を防ぐなら、仕組みごとそろったサービスを最初から使うのが近道です。設計の手間や専門知識の不足は、パートナー選びで補えます。
まず考えたいのは、「何のために、誰の、どんな行動を変えたいのか」。ここがはっきりすれば、どの形態をどう組み合わせるかは自然と決まってきます。手始めに、自社の人材育成の現状を棚卸しするところから始めてみてください。
最高の業績を上げている組織は、常に以下の4つの点を適切に実施しています。
- 各階層で優れたリーダーを育成する
- 個々人に効果的な習慣を形成する
- 包括的で信頼性の高い文化を構築する
- 共通の実行システムにより最重要目標を追求する
フランクリン・コヴィーは、上記の4つの重要領域における組織の行動変容の実現を通して「お客様の成功」に貢献するサービス提供や支援をしています。人材育成や、組織風土の醸成や変革などご検討されている方はこちらよりお気軽に問い合わせください。







